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【詩/谷川俊太郎】子どもたちの遺言

谷川俊太郎の詩集『子どもたちの遺言』より
2つの詩を紹介します。

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「生まれたよ ぼく」

生まれたよ ぼく
やっとここにやってきた
まだ眼は開いてないけど
まだ耳も聞こえないけど
ぼくは知ってる
ここがどんなにすばらしいところか
だから邪魔しないでください
ぼくが笑うのを ぼくが泣くのを
ぼくが誰かを好きになるのを
ぼくが幸せになるのを

いつかぼくがここから出て行くときのために
いまからぼくは遺言する
山はいつまでも高くそびえていてほしい
海はいつまでも深くたたえていてほしい
空はいつまでも青く澄んでいてほしい
そして人はここにやってきた日のことを
忘れずにいてほしい


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「いや」

いやだ と言っていいですか
本当にからだの底からいやなことを
我慢しなくていいですか
我がままだと思わなくていいですか

親にも先生にも頼らずに
友だちにも相談せずに
ひとりでいやだと言うのには勇気がいる
でもごまかしたくない
いやでないふりをするのはいやなんです

大人って分からない
世間っていったい何なんですか
何をこわがってるんですか

いやだ と言わせてください
いやがってるのはちっぽけな私じゃない
幸せになろうとあがいている
宇宙につながる大きな私のいのちです


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~あとがきより抜粋~

死に近づきつつある大人よりも、
はるかに死に遠い子どもが大人に向かって遺言するほうが、
この時代ではずっと切実ではないかと思って、
発想を逆転させた
生まれたばかりの赤ん坊に遺言されるような
危うい時代に私たちは生きている



※写真は我が家の子どもたちの小さかった頃です。

by nara-hsnet | 2015-10-05 16:28 | 未分類